はじめに
”以前は面白かったSNSが最近はつまらなくなった。”
よく聞く言葉ではないでしょうか。
私は面白さとは二つあると思っていて、一つは未知の情報を知る面白さ、もう1つは自分の体験を再度確認する面白さです。
前者は新しい分野の勉強、後者は自分の学んだことをベースに再現性のある事象が得られた、仕事を取れた、と言い換えても良いかもしれません。
面白かったころのSNSとは前者に当たり、自分が知らなかった事を発信している人を容易に見つけられたり、交流することが出来たり、自らの発信を評価してもらったりしたことで面白いと感じていたと考えられます。
最近面白くない、つまらないと感じているのは、情報に飽きてきたり、特に最近ではSNSに悪意が満ち始めた事が問題と考えています。
SNSは自分の似た趣味、近い感性を持った人たちで固まりやすい構造になっていますから、そのコミュニティとして正しいとされる情報だけが入って来やすく、多角的な情報が入って来づらくなります。
ましてや情報は誰かを通過した時点でゲインが掛かり、偏った形の情報として発信されます。
そこに、悪意やネガティブな情報が載って発信されるとそのコミュニティ内部であっという間に共有され、増幅されていきます。
これは人間の共感能力のバグによったものですが、ヒトは元々ネガティブな情報に対し共感しやすく出来ています。危機管理の点から考えると、ネガティブな情報というのは命の危険を脅かす可能性のあるものです。
故に、すぐにアンテナが立ってしまい、情報の共有速度も速い傾向にあります。
集団心理におけるネガティブブースターとは
人と話しているうちに、話していた内容で盛り上がり、ちょっとした内容でも大事のように思えてくることがあります。
特にSNSにおいては、価値観の似た者同士で交流し、共感し合うことにより、特定の意見や思想が増幅されて影響力をもつ現象となり、専門用語ではエコーチェンバー現象といいます。
もともと人は噂話が好きで、それは種として生き延びるための手段であった危険な情報や食料の情報を共有が元となっています。
ポジティブな内容、例えば食料の情報などは好意的なものとして受け入れられやすく、命の危険などネガティブな内容は嫌悪感などとして受け入れやすく出来ています。
ヒトという種は”共感”することで発展してきた種ですから、ネガティブな情報に対しても強く共感し、広める性質を持っています。
これが集団心理における「ネガティブブースター」と呼ばれる現象につながります。ネガティブブースターとは、集団内でネガティブな情報が共感や怒りを伴って増幅され、実際よりも深刻に捉えられる現象のことを指します。
例えば、SNS上で特定の企業や個人に対する批判が発生した際、最初は小さな出来事であったとしても、共感する人が次々に加わることで話が膨らみ、いつの間にか「大問題」として扱われることがあります。人々は自分の意見が多数派であると感じるほど、それを強く主張しやすくなり、さらに感情が先行しやすくなります。このようにして、怒りや恐怖が増幅され、冷静な判断が難しくなるのです。
また、ネガティブな情報はポジティブな情報よりも拡散されやすいという特徴もあります。研究によれば、怒りを伴う投稿は通常の投稿よりも広まりやすいことが示されています。
これは、人間が「危険な情報を共有することで集団を守る」という進化的な背景を持つからかもしれません。しかし、現代の情報環境では、この特性が過剰に働き、デマや不安を増長する要因となることがあります。
自分の周囲30cmしか見えない人はネガティブな情報を摂取したがる
人は、自分の視野が狭くなるほど、ネガティブな情報に引き寄せられる傾向があると言われています。
例えば、周囲30cmしか見えない状況を想像してみてください。自分のすぐそばにあるものしか認識できず、遠くの出来事や広い世界の動きには気づけません。その結果、目の前にある情報がすべてになり、刺激の強いもの、特に危険や不安を煽るものに対して敏感になります。
これは、人間の本能的な防衛機制とも関係があります。
生存本能として、危険を察知する能力が高まると、ネガティブな情報を優先的に処理するようになります。視野が狭まることで、不安や恐怖に注意が向きやすくなり、結果として否定的なニュースやゴシップ、悲劇的な出来事に対して強い関心を持つようになります。
また、ネガティブな情報には「即座に対処すべきもの」と感じさせる要素が多いため、一種の刺激として消費されやすいのです。視野が狭く、限られた世界しか見えない人ほど、刺激的な情報に依存しやすくなり、それがさらなる不安を生み出す悪循環に陥ることもあります。
情報ブロッキングによる問題
情報ブロッキングは、特定の情報へのアクセスを意図的に制限する行為であり、さまざまな問題を引き起こします。特に、インターネット上のサイトブロッキングは、通信の秘密や表現の自由といった基本的権利を侵害する可能性が指摘されています。例えば、政府が特定のウェブサイトへのアクセスを遮断する場合、通信の秘密を侵害し、検閲の禁止に抵触する恐れがあります。
さらに、ブロッキングの実施過程が不透明であることも問題視されています。国民の代表者である議員による国会での議論を経ずに決定が行われると、民主的なプロセスを欠いた措置となり、法治国家としての在り方が問われます。
また、ブロッキングは、対象とするサイト以外の正当な情報まで遮断してしまう「オーバーブロッキング」のリスクも伴います。これにより、ユーザーの知る権利が不当に制限される可能性があります。
さらに、ブロッキングの実施に伴う費用負担や技術的な課題も無視できません。プロバイダがブロッキングを実施する場合、その費用や技術的負担が増大し、結果としてサービス全体の質の低下や利用料金の上昇につながる可能性があります。
SNSは悪か?
SNSは悪か、この問いには単純な答えはありません。
SNSは情報共有やコミュニケーションの手段として非常に有用ですが、一方でネガティブブースターや情報ブロッキングといった問題を引き起こす側面もあります。
SNSではエコーチェンバー現象が発生しやすく、似た価値観の人々が集まることで、特定の意見が過度に強調されることがあります。特にネガティブな情報は拡散しやすく、誤情報や過剰な批判が一気に広がることも少なくありません。その結果、集団心理によって冷静な判断が失われ、デマや誤解が社会に広がることもあります。
また、SNSプラットフォームの運営側が情報ブロッキングを行うケースもあり、アルゴリズムの調整によって特定の意見や情報が抑制されることがあります。
これは、意図的であれ無意識的であれ、ユーザーが偏った情報のみを受け取る原因となり、知る権利の制限につながる可能性があります。
しかし、SNSは民主化のツールとしても機能しており、市民が直接情報を発信し、社会問題に対する関心を高める役割も果たしています。要は、SNS自体が悪なのではなく、使い方次第で良くも悪くもなるということです。
重要なのは、SNSの特性を理解し、情報を鵜呑みにせず、多様な視点を意識することです。
しかしながら、ネットでの影響を研究している方々は、SNSは最早ソーシャルメディアでしかない、とも考えています。重要なのは、インフルエンサーの投稿だけが正しいものではない、という認識を持ち、冷静な判断力と、判断する為の知識を持つことが大切です。
ファクトチェックの必要性
現代社会では、SNSやニュースサイトを通じて膨大な情報が瞬時に拡散されます。しかし、そのすべてが正確なものとは限りません。誤情報やフェイクニュースが広がることで、人々の認識が歪められ、社会に大きな影響を与えることがあります。こうした問題を防ぐために重要なのが「ファクトチェック」です。
ファクトチェックとは、公開された情報の正確性を検証し、誤解や虚偽を正すプロセスです。特に、政治や経済、医療などの分野では、誤った情報が政策決定や個人の行動に影響を与える可能性が高いため、事実確認の重要性は極めて高いといえます。例えば、新型ウイルスに関する誤情報が広まった際、不適切な治療法を信じた人々が健康被害を受けるケースがありました。
また、ネガティブブースターやエコーチェンバー現象によって、一部の情報が偏った形で拡散されることもあります。ファクトチェックを行うことで、感情に流されるのではなく、客観的な視点から情報を判断する力を養うことができます。
私たち一人ひとりが、情報を受け取る際にその出典や信頼性を確認し、拡散する前に事実かどうかを精査する姿勢を持つことが、正しい情報環境を守るために不可欠です。